2010年3月18日木曜日

「蓋」


何でも捨てられず、取り置く癖のある妻には、いつも困っている。私だって、読むあてのない本をせっせと溜め込むのだから、あまり批判がましいことは言えないが。本来の役目を果たした、通常は廃棄するだろうというものまで、取りあえず何かの役に立つかも知れないからと取り込んでしまう。紙、布、テープ、板、ガラス製品、キャップ、その他正体の分からないもの、等々。中でもガラスや陶器の容器がいけない。カラスが光るものを集めるように、手当たり次第容器を溜め込むという行為は彼女らの本能なのかも知れない。

旅先のスーパーマーケットで陶器に入ったヨーグルトを買い求めホテルで食べた折り、なにやらしみじみ見ているなあと思っていたら、全部の容器を秘密で持ち帰っていた。旅行するときは1グラムでも軽くと知恵を絞っているのに、よりにもよって重たいゴミを私のカバンの隅に隠し込んでいたのだ。もちろん、きっといつか何かの役に立つだろうから、という理由からだった。

しばらくして、運良く絶好の用途が見つかったが、あいにくサイズぴったりの密閉する蓋がない。もともと紙で覆っただけの容器だったので、別途用意する必要があったのだ。そこで外周を描いた紙片を持たされ、これに合いそうな蓋があったら持ち帰るようにと言いつけられていた。しかし探してみると、容器の蓋なんて意外にないものである。店の人に訊いても、不思議そうな表情で「どういうものですか」と聞き返してくる。そもそも我々の社会では、廃品利用をサポートするようなシステムはないようだ。そう諦めていたところに、雑貨屋で偶然見つけた唯の「蓋」。喜び勇んで買って帰ると、あつらえたもののようにぴったりと収まった。ひとまずめでたし、ありがとうドイツ人、という気分なのである。

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