J・J師の本を読んだのは学生時代だった。
ジャズはよく聴いたし、名画座で尖がった映画も観てたから。
いわばサブカルチャーの師匠だったわけである。
時は流れて、積極的に暇つぶしをしなくてはならない年齢になった。
漫然と家に籠っていては呆けてしまうのである。
健康のためにウォーキングは欠かさないが、これは単なる時間稼ぎ。
そのうちネコのようにどこかにいなくなって、家族から捜索願が出るだろう。
じゃあどうすればいいかと思いついたのが、J・J師である。
毎日のように街を散歩して、買い物をしたり喫茶店に立ち寄ったり。
とにかく活発に動き回り、小さな楽しみをかき集めている。
これならば、少しは自分にも出来そうな気がしてきたのだ。
「植草甚一日記」は戦中と戦後の散歩記録である。
強く興味を引いたのは戦後編で、今自分が暮らしている街のちょうど半世紀前の様子が克明に描かれている点だ。
あれから街の様子はすっかり変わってしまったが、師が毎日歩いた小道を改めて辿ってみたいと思った。
そして自分なりの小さな楽しみを拾い集めてみようではないか。