小松左京のSF小説「日本沈没」を読んだのは、高校の春休みだったろうか。
新聞広告で、これは面白そうだと直感して、書店に平積みになってるのを発見し上下二巻をまとめ買いした。
店主が不思議そうに、「これ面白いのかい?」と聞いてきたものだ。
マニア向けのSF小説がいきなり売れるので理由が知りたかったのだろう。
小説は、この年の空前のベストセラーになった。
ぼくにも理由はわからない。
ただ戦後、空前の経済成長を続けた日本人のこころに、この繁栄が未来永劫続くのだろうかという疑念や不安が広がって、何か悪いことが起きるのではないかというモヤっとした気分が「日本沈没」を読むきっかけになったのかもしれない。
その年の秋、国民の不安感は、「オイルショック」という形で現実化する。
長く続いた高度経済成長は終焉し、主婦たちはパニックになってトイレットペーパーを買いだめに走った。
自分たちには何の関係もないと思っていた遥か遠くの中東の戦争が、平和ぼけの日本人に冷水を掛ける結果になった。
あれから50年が過ぎた。
日本は年老いて縮小する、静かで小さな国になった。
安く楽しめるからと、世界中から観光客が押し寄せてきている。
当時、誰も日本がこんな国になるなんて想像しなかったことだろう。
少なくとも、日本の未来を信じていたぼくにとっては、そうなのである。
昨夜、政府が巨大地震注意警報を発令した。
10年以内には起きると覚悟してたが、事態が切迫すると不思議と現実感がないものだ。
もし南海トラフ地震が起きると、ほぼ間違いなく日本経済の息の根は止まる。
国家は破綻し、あのアルゼンチンのごとく、もはや先進国とは言えない国になる。
通貨は暴落し、物価は舞い上がり、国民生活は困窮を極める。
小説の中で、日本が沈没するという極秘情報を得た主人公が、海外へ転勤するという兄に理由を告げず決断を迫るという場面が描かれていた。
自分は老人だから、いまどこかに移住して新しい生活を始めるという選択肢はない。
せいぜい、病気をすることなく、あまりひもじい思いをせずに一生を終えることができたらと願うばかりである。
ちなみに小松左京は東日本大震災の年に亡くなった。
今もし生きていれば、どう思っただろうか。
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