2015年5月19日火曜日

昼下がりの美術館にて

日曜の午後、東京国立近代美術館の常設展に行ってきました。
前にも述べたと思いますが、ここは日本の近代絵画のコレクションが充実していて、都内の美術館ではいちばんのお気に入りです。

今回、とくに時間を掛けて見たのが藤田嗣治の戦争画でした。ひとつは「アッツ島玉砕」、そして「ノモンハン事件」、もうひとつが「サイパン島玉砕図」。
戦意高揚を目的とした絵のはずですが、なぜか戦争の悲惨さを強調したとしか見えないような作品です。
これらの絵を眺めていると、我々は何と無益で愚かな戦争をしたのだろうかと深い溜息しか出てきません。
特に多くの女性や子どもをも巻き込んだサイパン島玉砕を描いた絵からは、悲しみを通り越して、あまりに無能だった軍部に対する怒りが沸き起こります。

同時に開催されていた「大阪万博展」は、とても興味深いものでした。
展示品からは、未来は我々の前に明るく開かれているとでもいう、喜びに満ちた楽観が感じ取れます。
その当時わたしは子どもでしたが、まるでおもちゃ箱をひっくり返したようなとりとめもない展示や奇妙奇天烈なパビリオンのことを良く憶えています。

「人類の進歩と調和」をテーマとした博覧会でしたが、今にして思うと甚大な被害をもたらした戦争が終わってたった4半世紀しか経っていないのに、国家プロジェクトとしてあれほどのどんちゃん騒ぎがよくできたものだと感心します。
人類の進歩とは、過去の過ちを決して無駄にしないことでしか得られないはずのもであり、それは見せかけの華やかさとは無縁のものでしょう。
確かに敗戦からの日本の復興は素晴らしいものでしたが、同時にその過程で私たちはどれほど誠実に過去に向かいあったのか。
藤田の描いた悲惨な時代とは背中合わせの、大阪万博の際だった無邪気さを思うとき、これから直面するであろう厳しい未来に深刻な不安を感じざるを得ません。