フィンランドの森

目の前のディスプレーは、搭乗機が北極圏をかすめ、ムルマンスクの脇を通り抜け、フィンランド国境に向かっているのを示していた。ちょうど真冬のロシアの、硬く凍りつき、色彩を欠いた大地を見詰め続けてうんざりとした頃だ。すると旅客機の窓越しに、黒々とした森の向こうに、小さな光の輪のようなものがあるのに気付いた。そして急速に接近するにつれ、徐々に色や形が明確になり、それはオレンジ色の街灯に縁取られた湖や道路、家屋の光だということが分かった。その景色は、光輝くいくつもの首飾りが、冬の大地を暖かく覆っているように見え、また、ここから豊かな文明社会が始まるというサインであるようにも見えた。それが、初めて目にしたフィンランドの森と湖だった。わたしは息を飲む圧倒的な美しさに、そのまま外に飛び出して叫びたいくらいに感動したものだ。

夏の暑さが嫌で、例年冬に長めの休暇を取るが、今年は用事が立て込んでお流れになった。このままだと口惜しいので、時間が取れそうな時期を見込んで早割航空券を購入した。2ヶ月以上も先のことだけど、自分で〆切を付けないと、ずるずるとけじめ無く仕事を続けそうな気がしたからである。「ほんとうは、今の時期がいいんだよね。クリスマスシーズンの夜景も綺麗だし。」とか愚痴りつつ、毎晩のように遅い夕食。取り敢えず、入りと出だけを決めておき、その他の具体的なスケジュールや宿の予約などは全面的に妻任せだ。

週末に、航空会社から届いた封書には、チケットの束の代わりに、数枚の領収書と確認書類しか入っていなかった。便利になったのは歓迎だが、だんだんと旅の風情や興奮もなくなってきている。それだけ世界は、小さく、平らに、そして忙しくなっているのだ。

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