2009年4月5日日曜日

大貫妙子の歌

オッサンは、電車の中ではイヤホンして目を瞑っている。何を聴いているのかと興味を持たれることもなく、車内の吊革ほどの関心さえ払われない。だから、気分はとても自由。できることなら缶ビールを片手に、このまま終点のずっと向こうまで揺られていきたいと、ときどき思う。

このごろ、突如として大貫妙子のうたを聴き始めている。若い時のはちょっとつまらなく感じていたけど、年輪が加わってからのがいい。表現が多彩で、それぞれが深く咀嚼され、加えてどこか冷めて余裕のある様が、オッサンの年頃とちょうどいい距離にある。決して夢中にはならないが、だからといって知らん顔するわけでもない、まあそれが大人の付き合いだよと言える程度のものだ。

いま、携帯プレーヤーに入れているのが「ensemble」というアルバム。たとえば神社の長い階段を登り、最上段に到達してから後ろを振り返ると、その下に広がる黒い瓦屋根が濡れたように光り、吹き抜ける風がなんともいえず清々しい。そんな誰もが体験する、小さな感動をふいに思い出させる、そういった種類の音楽である。

なかでも、Rendez-vous なんか聞いていると、小高い丘がどこまでも広がっているスペインの平原を、特急列車で突き抜けていくような、穏やかで満たされた気分になってくる。いつか行かなくちゃと思いつつ、どうしても時間が取れなくて、仕切りにため息の増えるこのごろである。いわばオッサンの煩悩というやつだ。

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