2009年8月6日木曜日

「火垂るの墓」



野坂昭如の「火垂るの墓」を読む。爆撃によって家を焼かれ、家族を失う少年の短い物語だ。この小説には、主人公の悲しみや怒りが、祈りにも似た言葉に結晶化している。だが、それは神仏に祈る言葉ではなく、深い井戸の奥に向かって、低く、静かに、果てしなく続く呟きのようだ。試しに、最後まで読み終えたら、直ちに最初に戻って読み直してみてほしい。何の違和感もなく、そのまま物語が続くことがわかる。終わりのないループする物語。だから怖い。だから、悲しい。

何年か前に、物語の少年が最後にたどり着いた場所を写真に撮った。現在は明るく清潔な構内では、ちょっと昔のある夏の日には、希望を奪われた戦災者で溢れていた。そこでは小説にあるように、親しい人に看取られることなく、そのまま命を落とした子供も少なくなかっただろう。誰かに何かを訴えることなく去っていった小さな命の、最後の言葉に耳を傾けなくてはならない。「火垂るの墓」を読んで、そう強く思った。

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