クリスマス・イヴ



12月に旅行をする機会が多く、これまで様々な国のクリスマスシーズンを体験してきた。キリスト教を基盤にする国では、この時期、凍てつくような気候とは裏腹に、石造りの街全体が暖かな光で覆われる。もちろん商業的な華やかさが目につくものの、それだけでなく、民家の厚い木の扉や軒先などに、ちょっとした飾り物が取り付けられ、それがいかにも素朴な信仰心の象徴のようであり、ほっと心が和まされるのである。

また、それぞれの地域によって、土地柄を反映した個性的な飾り付けがあり、そのありようが社会の雰囲気をあらわして、異邦人にとってはとても興味深いのだ。どの家の窓辺にも、オフィスの窓にまで、三角をかたどる小さな明かりを灯している国があった。別段法律で決められている訳ではないだろうが、社会の整然とした連帯感の強さを感じさせられた。また、玄関先にロウソクを灯す習わしのある国があった。ほかに特別な飾り付けはないが、雪の中でゆらめく小さな炎がたとえようもなく美しく映え、人々の洗練された美意識をよく表していると感じた。

わたしは信仰する宗教を持っていないので、これまでもクリスマス行事とは無縁であり、イヴだからといって特別なことをしたいとは思わない。ただ、宗教を介して連帯感を持ったり、他人を思い遣る気分になる季節が毎年やって来るというのは、その社会にとって悪いことではないと思う。ディケンズの「クリスマス・キャロル」ではないが、自分たちのことで精一杯の暮らしの中で、一日くらいは見知らぬ人たちの幸福を願う夜があったっていいではないか。

夕刻の渋滞に巻き込まれ、クルマの中からオフィス街の明かりをぼんやりと眺めていたら、ラジオからオペラ歌手の歌う「アメイジング・グレイス」が聞こえてきた。薄く降り積もった雪が、すべての景色を浄化するように、透明で清らかな歌声が胸の奥に染みこんでいった。夕暮れの束の間の時間に、私にも訪れた、クリスマス・イヴであった。

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