2010年3月8日月曜日

早春の伊豆


伊豆に出かけた。夕方に現地に到着したが、想像していた以上の暖かさで汗をかく。早咲きの桜はすでに満開であり、淡いピンクのグラデーションが周囲の景色を彩っている。海岸沿いを散歩すると、3月の風が花々の匂いを運んできて、ほのぼのとした幸福感に満たされる。踏切を渡れば、線路脇に黄色い菜の花とピンクの桜が揺れていた。


小道を抜けて少し高い丘に登ると、そこから急に視界が開けた。眼前に、夕日を浴びて、柔らかなオレンジ色に輝く大室山が望める。今はまだ枯れ草の山だが、あと一月もすれば若葉に覆われた苔玉のような美しい姿に変わるはず。伝承によると、大室山と富士山は姉妹で、美しい妹(富士山)ばかりが愛されたため、姉の大室山は不満を抱えて生きたという。だから、大室山に登って、そこから見える富士山を誉めてはいけないそうである。分別のある男ならば、そのくらいは当然弁えているだろうが、念のため。


その夜宿泊したのは、長年通う勝手を知ったいつもの旅館。部屋数が少ないので、いつ行っても静かであることが気に入っている。他の泊り客と滅多に顔を合わせないので、むしろ寂しいくらいかも知れない。この宿の露天風呂に浸かりながら、心ゆくまで読書をするのが、わたしのささやかな楽しみなのである。どうやって知ったのか、こんな小さな温泉宿にも中国系のカップルを多く見かけるようになった。都会的で洗練された物腰の、流ちょうな英語を話す中国の観光客たちを見るにつけ、苦しい経営を続ける地方の観光業界の人たちに、いくらでも繁盛の鍵は転がっていると励ましたいと思う。

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