夜の展覧会

上村松園展」に行った。これまで、バラバラにしか見ていなかったので、今回の回顧展は全体を俯瞰するのにちょうどいい機会だった。作品は10代から始まり最晩年まで、よくこれだけ集めたものだと思わせる展覧会だった。上村松園は、いわゆる「美人画」というカテゴリーの作家だが、わたしは人物の描写が抽象的になっていく後期の作品群が気に入っている。遙か遠くに焦点がある視線の曖昧さ、言葉を発しない表情、これらは人物の意識が外でなく内側に向けられていることを示している。画面の余白は、透明で硬質な精神の広がりを暗示していた。そして後期の作品群は、まさに作家が精神の高みを目指して精進し、妥協なく積み上げられた巨石のような印象を受けるのだ。最後に代表作のひとつ、松園自身が理想の女性像として描いた「序の舞」を見ながら、わたしは京舞の人間国宝だった井上八千代の舞姿を思い出していた。

今回は人気の展覧会だったので、土日はパスして、金曜の夜に行ったのだけれど、みんな同じことを考えていたらしく、夜のチケット売り場の前は長蛇の列。やっと館内に入っても、非常に混み合っていて思うように鑑賞できなかった。6時過ぎに入館して、一通り見終わったのが7時半、もう一度大切な作品だけを見ようとしても残された時間は30分だけ。本来ならば、途中でお茶でも飲んでゆったりと休憩を取り、その後気に入った作品だけを堪能したいところだが、実際は時計を気にしながら疲れた体に鞭打って会場内を右往左往した。

いつも悔しく思うことだが、せっかく時間を割いて贅沢を楽しもうとしているのに、どうして公共の文化施設はそのニーズに応えないのだろう。都心の美術館であるにもかかわらず、通常の閉館時間が5時だなんて、勤め人に美術鑑賞は必要ないといっているに等しいし、ちょっと手軽に飲食したいと思ってもそういう設備も用意されていない。おまけに一旦会場外に出たら、もはや再入場が許されない。「外国では」などと引き合いに出すのは憚られるが、再入場が許される有名美術館だって現にあるし、館内の休憩設備が貧弱なところならばなおさらそういうサービスがあって然るべきだと思う。国立近代美術館は、昔から気に入っている美術館だけに、その点がとても残念なのである。

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