雲を眺めながら


20世紀は映像の時代だといわれた。戦争や飢餓や災害、大事故に遭遇して苦しむ幾多の人々の生々しい姿を、メディアを通じて嫌というほど見てきた。時々なにかの弾みで思い出しては、あれは果たして現実だったのだろうかと訝しむほどだ。同じ時代に生を受け、なぜこれほど苦しまなくてはならない人々がいるのかという問いを、映像の時代に、わたしたちはずっと突きつけられてきたのだ。


妻と散歩していると、目の前の開けた場所から青空が広がり、真っ白に光り輝く雲が群れをなして、ゆっくりと流れていた。そのずっと上空には、幾つもの筋雲が伸びている。「かわいい雲ねえ。」確かに、妻がそう表現するにぴったりの、穏やかで、陽気な初秋の風景だった。


「いのちの大切さ」、などという手垢のついた言葉ではとうてい足りない。この場所に立ち、こうやって暫し雲の流れるのを楽しんでいる、そういう時間を過ごせることがどれほど奇跡的なことか。あれからもう10年、あれから半年、そしてこれからも起きるであろう悲しみに満ちた出来事・・・。決して繰り返されることはない、あまりに意識されない日常の一瞬こそが、かけがえのない時間なのだという気持ちで生きていけたらと思う。

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