デモ行進



在学中にデモ行進を経験した。その頃は、すでに大学紛争なんて影も形もなく、せいぜい子どもの頃ニュースで見たのを覚えているくらい。それでも趣味的に闘争ごっこを楽しんでいる学生も残っていて、学内にはまだゲバ字の立て看が並んでいたものだ。そんな連中の一人に「頭数が足りない」という情けない理由で頼まれて、いわばアゴアシ付きでデモに参加することになった。わたし自身も、タダで東京見物が出来て、弁当まで出るならまあいいかという、いたっていい加減な動機だった。

暮れのある日夜遅く、集合場所となった学生寮に行ってみると、食堂に50人程度の学生が集まっていた。リーダー格の若者がデモの趣旨やコースなどを説明し、逮捕された時の対処方法と注意事項を伝えた。そのあと、支給された使い古しのレインコートやヤッケなどを身につけ、塗料で汚れた軍手をはめ、更にガムテープで袖口を綴じたりして防寒対策を施した。ホームレスも逃げ出すくらい見苦しい格好だ。メンバーはおおむね初参加らしく、見様見真似で戸惑いながら身支度をした。そして準備が整い、待機していた貸し切りの夜行バスに乗り込み、デモコースの東京に向かった。

出発地点は、文京区の某大学近く。早朝に到着したので、時間調整のため車中で弁当を食べて待った。皆、緊張して押し黙っている。そして出発時刻となり、それぞれがセクト名の書かれたヘルメットを被り、予約していた機動隊の職員にエスコートされて、周囲の道数キロを練り歩いた。デモのやり方は、労組の行列みたいにぞろぞろと歩くのではなく、若者らしく隊列を密集させて気勢を上げ、いかにも闘争しているというスタイル。しかし、社会はすっかり平穏になり、学生にも抗議すべき特別な理由もない。私たちは、いわばデモ初心者のぎこちない初舞台という感じで、機動隊の事務的な助言に従い粛々と歩いた。ゴールは後楽園だった。はるばる遠くから来たのだから、ちょっと遊んでいこうという声も上がるが、貸し切りバスの都合で後ろ髪を引かれる思いで帰路についた。デモといっても、たったそれだけのことだった。

あれが何のデモだったのかも忘れてしまった。しかしその場所を通るとき、今では面影を残さない当時の街の静かな様子や、初冬の穏やかな休日の場違いなデモ行進のことを、ふとした拍子に鮮やかに思い出す。ある時、団塊世代の女性にそんな情けない記憶を話したところ、彼女自身が新宿で機動隊員に投石をして逃げ回った体験を、懐かしさを込めて話したものだ。元気で自己主張が得意な彼女の世代、個人主義的で無関心、無感動、無気力と言われるわたしの世代。それほど年齢が離れているわけではないが、彼らとの違いを感じることは意外に多い気がする。

写真は、フランスの地方都市で遭遇したデモの様子。デモの本場らしく当地では何度も目にしたが、たいていこんな風にのんびりとやっている。

コメント

人気の投稿