「現代の貧困」

将来の社会を考えるには、言うまでもなく現状認識が重要である。現在は小さく見えることでも、いずれ社会に大きなインパクトをもたらす要素になるかもしれない。そこで今話題の社会格差を考える手がかりとして、岩田正美の「現代の貧困」を読んでみた。

大衆メディアでは格差論花盛りといった状況だが、本当のところはどのような状況だろうかという疑問について、きわめてまじめに答えている本である。しかし、これまで貧困の問題が社会的に注目されてこなかったという経緯、貧困の研究そのものが困難を伴うものであること、新書という性質上コンパクトに書かなくてはならないという要請等、様々な制約が加わっていることから、読者にとっては本書を一読して全体像を飲み込むのは難しい。従って、断片的なメモとして記録したい。

押さえておくべきは、貧困は「あってはならない状況」の発見という、社会的認知の問題だということ。貧困はあったりなかったりするものでなく、いつの時代でも貧困は存在する。-------- 社会の成熟レベルが低ければ、あるはずの貧困も見えなくなるという仕組み。一時、一億総中流というスローガンを無批判に垂れ流していた自称社会の木鐸のレベルが問われそうだ。

貧困層はいつも満員の乗り合いバスのようなもの。多くの乗客は乗り降りするものの、ずっとバスに乗り続けなくてはならない人たちもいる。そのような持続的、慢性的貧困層の固定化が進行しているのが現在の問題。学歴、雇用、家族の3つの属性において、社会的に不利な人々が貧困からの脱出を困難にしている。------------ とりわけ十分な高等専門教育を受けているか否かが、貧困と無縁でいるかどうかの分水嶺になっている事実に驚愕する。これからそうなると思っていたら、すでにそうだったということに。

日本の福祉政策は高等専門教育を受けた、既婚、子持ちサラリーマン家庭というモデルに有利に設計されていて、あってはならない状況に置かれた不利な人々の福祉をカバーするものでないということ。------------ そういえば、社会主義には公的に貧困は存在しないのだったね、という悪口は兎も角。生活保護の母子加算制度が廃止されたとは、迂闊にも知らなかった。もっとも声の小さく、弱い立場の人々に負担を回すとはあまりに惨い政策だ。

この国の少子化問題というのは、豊かさ故の問題というより、単純に貧困の問題とするのが素直かも。婚姻にとらわれず子供の福祉を充実させた国々で出生率が上昇しているのは、その証拠になるのでは。また高等教育機関への進学の機会平等を保証し、できるだけ高度な専門知識を習得させるのが、もっとも効果的な貧困対策になるはずだ。------ 欧州の福祉政策は、豊かだったから出来たのではなく、適切な福祉政策を講じたからこそ豊かになったと考えるのが正解?

貧困はあらゆるものを毀損する。それは個人の問題にとどまらず、社会の連帯を弱め、ひいては国力を衰退させることにつながる。素朴な自己責任論や公平論に振り回されず、長期的な国家戦略として冷静に貧困問題の解決を図る必要がある所以。結局は国民を啓蒙して、従来の内需拡大策より弱者の福祉を充実させた方が、安全で豊かな社会を作れると納得させなくてはならない。そのためには、人々がじっくりと判断できる、落ち着いた文化環境が必要だろうが、だがその辺にまったく期待できないのが辛い点である。つまり私たちの将来は、私たちの民度で決まるというありふれたオチとなる。

コメント

  1. こんにちは。毎日暑い日が続きますね。
    福祉を勉強していたことがありますが、そこで身に染みたことの一つに社会的弱者に対する社会の厳しさがありました。この国は弱者に厳しいです。障害者自立支援法や老人保健医療の改正、母子加算の廃止など、社会的弱者に鞭打つ政策が次々と出て、本当はもっと援助するべきなのにと腹立たしく思いました。自分より立場の弱い人には優しく、みんなそう教わったはずですけど。無関心で他人事と見ない振り、これをなんとかしにゃイカンなぁと常々思います。

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  2. >pamさん
    こんにちは。本当に暑い日が続きますね。昼間はエアコンをつけていないので、休日は誰にもお見せできない格好で過ごしています(笑。
    でも生活保護の必要な人たちには、むしろエアコンがなくては困る人も多いはず。以前、受給者はエアコンの設置が認められないと聞いたことがあるのですが、現在はどうなっているのでしょうね。制度の柔軟な運用が切に望まれるところです。

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