「住宅喪失」

せっかくの夏休みだし、どこにも出かけないのだから、せめて楽しいことして過ごしたいと思いながらも、きょうもまた憂鬱な本を読み続けている。このところサブプライムローン絡みのクレジットクランチに関する報道が頻繁になされているが、結局はアメリカの景気後退と中国バブルの破裂のワンセットで、日本の景気回復も終了ということになるのだろう。そこでアメリカの住宅ローンのことを調べていたが、肝心の日本の住宅ローンについて無知だったので、我が国の持ち家事情を知るために手に取った本が「住宅喪失」である。家を建てることを計画した際、土地や住宅そのものについては知識を入れたが、社会問題としての居住についてはすっぽりと抜け落ちていたので、読後のインパクトはそれなりに強烈であった。

わかったことは、またしても企業の利益を最大化するため人々の幸せを軽視する、この国の酷薄な政策が、個人の住宅事情を悪化させているという事実であった。長期的な景気低迷とデフレが続いて政府の持ち家政策が破綻し、企業の負担を軽くするため正規就業者を切り捨て、未来の展望が描けない派遣労働者中心の雇用形態に転換したあげく、ついて来れない人々は容赦なく切り捨てるという実に非人間的な流れが出来上がっているのだ。景気は徐々に回復しているといわれるが、リストラや収入減少による住宅ローン破綻が増加している。そして破産宣告を受けて我が家を失った人たちが、簡単に賃貸住宅に引っ越せるかというとそうではない。破産者リストに載った人たちの情報は不動産屋に回り、いざ家を借りようとすると破産を理由に断られるというのだ。

そして本は、ローン破綻の引き金となっている、日本の雇用環境の変化を描く。「労働者のニーズに応じた多様な雇用形態」を実現するため、政府お雇いの口入れ屋や金融業者、不動産屋が力を合わせて作ったのが雇用流動化政策である。正社員を簡単に切り捨てることができれば、時代の先頭を走る口入れ屋のオーナーたちはさぞ忙しいことだろう。そして固定費が削減され身軽になった企業を高値で売却できれば、金融業者もさぞ満足だろう。わたしの覚えている限り、これほどミエミエの人選で内閣の諮問機関が構成されたのはちょっと例がなかったように思う。ページに印刷されている名簿を、しっかりと頭に入れてほしいのだ。

話は終わらない。集合住宅の建替え決議の成立要件(区分所有法)をめぐり、法制審議会に業界の頭目が乗り込んで、決議要件を所有者の5分の4の賛成で済むようにしてしまったことである。当初は築30年後という要件が検討されていたようだが、「所有者は一番いいときに買い替えるようにすべきだ」という投機屋の論理で押し切られてしまったらしい。つまり、開発対象の地域内にあるマンションが邪魔になったとして、5分の4の区分所有権を取得すれば、いくら他の住民が反対しても「解体費用も負担させて」マンションから追い出すことができるのである。そして追い出された人が仮に高齢者だとすると、民間アパートは当然借りれないし、競争率の高い公営住宅への入居は不可能となる。住宅困窮者に何の手当もないのが不思議だが、再開発業者の仕事がやりやすくなるのは不思議でない。

まとめると、雇用と住宅は一体の政策課題。政府は高度な専門知識を有する管理者を正規就業者とし、それ以外の事務職や技術者は派遣労働者、残りの労働者は日雇いで賄うという就労形態を考えている。この部分は、先日読んだ経済書にも指摘してあったこと。そしてこれらの階層に対応して、従来の持ち家政策は、「より柔軟な」住宅政策に転換している最中なのである。そこには居住権が人権であるという思考は、ひとかけらも入っていない。もし憲法を改正するなら、居住権の保障を独立した明文規定とすることを、取引材料としてでも要求したいところである。

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