ウェグナーの椅子


ウェグナーの椅子を知ったのはいつだったか忘れたが、初めてそれに座ったのはスキー帰りに立ち寄った保養所でだった。長年にわたって憧れた椅子に深く腰掛け、ペーパーコードのクッションの具合を探り、木肌の手触りや肘掛けのカーブなどを、撫で回すように確かめた。そして、それからも毎冬のように保養所に宿泊し、その度にウェグナーの椅子に座り、二人で椅子の座り心地を確認し合ったものだ。

それから更に何年も経って、ようやく古い椅子を片付けてウェグナーの椅子を買う決心をした。そして店先で現物を前にして、最後のチェックをしていたときに、微かな不都合を感じた。それは椅子から立ち上がり身体を離す際に、肘掛けの先端が足に引っかかるのが原因だった。座りっぱなしだったら問題はないが、ふたりして始終キッチンと居間を行き来するので、その度に椅子に絡み付かれては具合が悪い。そして、家具としての美しさを優先するか、実用性を優先するか、再び議論し合って出した結論が、ウェグナーを諦めることだった。

だがウェグナーのデザインはきわめて合理的だったので、改めて異なるデザインの椅子を探すのも無駄に思われた。そこで探し出したのが、これに近いデザインの日本製の椅子だった(写真・上)。なによりも肘掛けが短く、邪魔にならないのが良かった。そして座面が固めなのも好みだった。欠点はデザインが似すぎていることだが、そこは実用性の観点から敢えて目をつむることにした。

そして、似たものを購入するという後ろめたさを埋め合わせるために、また予算が余ったということもあり、当初予定していなかったスツールもあわせて注文した(写真・左)。受注生産のため手元に届くのに時間はかかったが、日本の巨匠がデザインしたそのスツールの座り心地は、私たちの長い時間と試行錯誤の偶然によってもたらされたものだけに、また格別なものである。ウェグナーの椅子を日常で楽しむというチャンスは失ったが、それは生活スタイルの違いであり、残念だったがそれほど後悔もしていない。

「ウェグナーに座ろう」

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