2007年10月20日土曜日

英和辞典

田中菊雄の「英和岩波辞典」が古本屋のワゴンに投げ出されていた。古い本なのに箱も中身もきれいで、ほとんど使われた様子も見られない。究極の英和辞典と呼ばれたものが、捨て値で処分されているのが可哀想になって、必要もないのに思わず買ってしまった。

もちろん電子辞書もあり、最新の英和辞典も持っているのだが、どちらも今ひとつ好きになれない。電子辞書は便利だが潤いがなく、幾ら使っても自分の道具と言う実感が湧かない。最新の英和辞典は使い易いのは確かだが、その大きさと安っぽいビニールの表紙が気に食わない。そして、そもそも英和辞典がなくては困るというような生活はしていないので、本来そういうレベルのものは要らないのだ。

いわば義務として学習しなくてはならない人ならば、性能本位の辞書が必要だろう。しかし、大の大人が自分の都合で辞書を使うのだから、やはりそれぞれに要求するものがあり、それが見た目の美しさや手触りといった感覚的なものであってもいいはずだ。そして、いつもの我がままなのだけど、辞書も道具である以上、美しく、簡素で、いつも傍に置いておきたいと思わせる雰囲気が欲しい。

それには、辞書は現行サイズより一回り小さいバイブルサイズがいい。表紙は皮革である必要はないが、テカテカ光るビニールは最悪だ。やはり手触りが重要だと思う。普段からテーブルの隅に放りっぱなしになっていても浮くことがない、落ち着いた色と質感のある素材が好ましい。そしてこの岩波の辞書は、そういう要求にぴったりと当てはまっているのだ。

たしかに内容的には古いかもしれないが、突っ込んで調べたければ手段はいくらでもあるのだから、あくまで日常の友という感覚で使うのには十分だ。また十分古いのだから、これ以上古くなることはないという、奇妙な安心感さえある。むしろ、コンパクトでしかも上質な辞書というのが見当たらない今、この岩波の辞書は却って貴重なのだ。そして、英語使いだった父の書棚にも並んでいたこの辞書をようやく手に入れ、なんだかとても嬉しいのである。

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