古物ヘッドホン新旧

暮れも押迫った頃、急にヘッドホンの調子が悪くなった。ピアノのフォルテの部分で、微かにジジッ、ジジッと異音を発する。いよいよ寿命が来たのだ。思えばステレオアンプを買った際に、残りの予算でスピーカーかヘッドホンかを選ばなくてはならなくなり、中途半端なスピーカーよりも、評判の良いゼンハイザーのヘッドホンを、将来まで役立つだろうと思って決めたのである。それから想像以上に長く使い続け、パーツを取り替え、補修をして、そしてようやくモノとしての使命を終えたのだ。

ゼンハイザーの歴史的名機として知られた、そのHD414は後に記録的ロングセラーとなり、デジタル全盛となった今もパーツの供給が続けられている。軽やかでバランスのとれた、音楽を楽しむのに過不足ない音に馴染んでしまうと、敢えてそれ以上の製品を欲しいと思わなかった。いわば「足るを知る」という言葉がぴったりくる製品。そこが、いまだに世界中で愛用者がいる所以なのだろう。

急いで壊れたヘッドホンの替わりを探したが、気に入るものが全然見つからなかった。なによりも、実際に聴いてみないと分からないというのが、ひどく煩わしかった。これまでと同じゼンハイザー製ならば無難だろうと思ったものの、こっちの方は特に値段に不満がある。そこで、ふと思いついて、戸棚の奥から引っ張りだしたのが、知り合いから譲り受けたHD414SLという、微妙に型番違いのヘッドホンだった。これはずっと以前にパーツが手に入らなくなり、耳当てスポンジがないまま、使うことなく保管していたものだ。

なければ工夫、断然作る。そう、自給自足の精神。既に使う当てのなくなったHD414の耳当てスポンジを代用して、これを適当な厚みにスライスして形を整え、その上から布をかぶせ、周囲を輪ゴムで止める。取り敢えずの簡単な工作だけど、思いのほか実用に堪えうる形になる。再びピアノのフォルテを鳴らしてみると、ハンマーに叩かれた弦が唸りをあげて共鳴する様子が、明瞭に聞こえた。今まで聴くことのなかった音だ。それならばもう充分、見栄えが滑稽なのも個性のうちと割り切って、お下がりの古物ヘッドホンを使うことに決めた。それにしても、なぜか妙に音が良いではないか・・・。

・「ショパン:12の練習曲」マウリツィオ・ポリーニ
HD414に引退の引導を渡してしまったアルバム。奇しくもヘッドホンと同時期に買った、ポリーニの演奏する愛聴盤である。これを聴きながら深夜の高速道路を運転していて、知らないうちにスピードを出しすぎて怖い思いをしたことも度々。それくらいハイになってしまうほど、常識的な美しさを超えた、冷たく燃え上がるようなショパンの練習曲である。

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