「ずばり東京」

橋本治の「日本の行く道」に、この日本を1960年代前半に戻すべきだという提言がなされていた。それはちょうど東京オリンピック前夜の、大人が夢を見ることを恥ずかしいことだとは少しも思われなかった時代である。いわば新生日本の青年期である。

ところで、それは実際にどういう時代だったのか。わからなければ本を読もうと手に取ったのが開高健のルポルタージュ「ずばり東京」である。あの開高健が、「東京」という巨象にしがみついて、体温や臭いや、皮膚の下で脈打つ血管のうねりまで描写した、迫力のルポ40編である。いや、その内容の面白いこと面白いこと、最近話題の懐古映画なぞ足下にも及ばない出来だ。

特に素晴らしかったのは、東京オリンピックの開会式を描いた1本。そこで感じたのは、国家的イベントに国民が心ひとつになるという素朴な連帯感の心地よさであり、それを育む国の若々しさである。そして最初は巧みな表現に笑いを押さえきれなくなるが、なぜか読み終える頃には切なさで一杯になった。年老いて縮み行くこの国の、立ちすくむ姿しか見たことのない者からは、まるでおとぎ話の世界である。

どのエピソードも面白い。人それぞれに感じ入る部分は違うだろうが、どれも決して飽きさせない。この本、わたし自身にとっては再読になるが、読後の印象が当時とあまりに違い驚いている。日本は年老いたが、わたしもそれなりに年齢を重ねたということだろう。

コメント

  1. ギャンブラー18.4.08

    私も昔この本を読みました。若かりし開高健の知的パワーが伝わってくる名ルポだと思います。それにしても、「体温や臭いや、皮膚の下で脈打つ血管のうねりまで描写した」というのは言い得て妙ですね。
    この本だけでなく、山口瞳の「世相講談」をもう一度読んでみたいと思っているのですが、絶版のためなかなか見つかりません。いい本がどんどん書棚から消えていくのは、腹立たしい限りです。

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  2. ギャンブラーさん、どうもです。
    山口瞳、いいですね。
    おっかないけど懐かしい、昭和のオヤジの典型のような人でした。
    サントリーの広告で、若者に社会人としてのマナーなど厳しく説いておられたのをよく覚えてます。
    ご紹介の「世相講談」、早速図書館に予約を入れました。
    まだ読んだことがない作品なので、今から楽しみです。

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