「フード・セキュリティー」

食糧危機が現実的なものとして心配される昨今である。ただ、専門家でもない我々には、この地球規模の厄災を把握するには、基礎的な知識が決定的に不足している。そこで世界における食糧の需給状態、今後予想される事態、食糧危機の回避策などを、簡潔にまとめられているのが本書「フード・セキュリティー」である。

食糧供給は余剰の時代から慢性的に不足する時代に入った。グローバリズムの影響で中産階級が飛躍的に増加したことによる需要拡大と、水不足や耕作地の減少、温暖化による供給の減少がその原因だ。食糧の需要は急激に伸びているのに、それと同じ原因により、供給能力そのものが減少している。工業化社会を推し進めると、命を支える水や土地は儲けの良い工業に奪われる。モータリゼーションの到来は、道路や駐車場、巨大ショッピングセンターの需要で、少ない耕作地をより減少させる。ついさっきまで一汁一菜で満足していた人々が、グルメグルメと騒ぎ出し、その結果耕作地を荒廃させて農業の疲弊に拍車をかける。そして食糧自給率は低下して、世界規模で食糧の争奪戦を繰り広げる。これまでの大量消費社会を肯定し続ける限り、この恐ろしい連鎖反応の解消はない。

今日にあって国家レベルでも、農業生産者レベルでも、食糧増産の手立てがないのが現状である。だからといって食糧危機に手をこまねいていては、世界的な飢餓状況を引き起こし、社会不安や国際紛争の火種になる。ではどのようにして危機を回避すべきなのか。総論的には、食糧需要を抑え供給力を保全するため、各国政府や国際機関が連携し、強力なリーダーシップでもって、即時に社会改革のための具体的行動に出るべきと訴える。改革には痛みを伴うが、放置することで発生する厄災を考えれば、これを避けて通ることは許されないのである。

これを個人のレベルに引き直して考えると、必要とされる改革はすでに多くを手にしている人たちにとって愉快な話ではないだろう。先進国が独り占めしていた食卓に、何倍もの人たちが加わるのだから、それは以前の簡素な食生活に戻ることを意味する。大量消費社会のあり方を見直せば、産業構造が激変し、失業率を上昇させ、一時的には経済的混乱を招くだろう。またクルマ社会との決別は、人の暮らし方、働き方を変える。野放図に欲望を満たすことを良しとした現代社会は、一転して人々に質素に、そして賢く生きることを要求することだろう。はたして、わたしたちはその変化を受け入れることができるのだろうか。「フード・セキュリティー」を読んで、人間の知恵や勇気を試されるときが、目前にやってきているということを強く感じた。

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