千鳥足で

今年の夏も終わるんだ。そう思ったら急に「風の歌を聴け」を読みたくなり、本棚をかき回してみたが、背伸びをしなくては遠い場所の、それも2段並べの奥のほうに仕舞ってしまったらしく、どうやっても出てこない。仕方なく、足元に残土のように積み上げた文庫本を元の棚に戻しながらふと見ると、その中に沢木耕太郎の「バーボン・ストリート」が混じっていた。これ面白かったんだよなと、パラパラとめくっているうちに、いつもの悪い癖で、だんだんとページの深みにはまっていった。

「ぼくも散歩と古本がすき」という章で、「植草甚一スクラップブック」が取り上げられ、ああ学生のころ何冊か買って読んだなあと思いだし、その当時の、今はわたしもよく通っている古本屋にJJさんが何時もいたというエピソードに、当時の様子を想像して楽しくなった。あの冴えない小さな町の、取り立てて見るべきものもない平凡な商店街を、とびきりサイケな格好をした得体の知れない男が歩き回っていたのだから、そりゃ目立ったろうな。

とりとめもない想像をしながら読み進むと、古本屋の山王書房の話になり、そこに野呂邦暢のエピソードが加わってくる。覚えのない名前だったのでその場で検索すると、早世を惜しまれた小説家であり、向田邦子が最後に手掛けたテレビドラマの原作者で、昭和55年の春、向田と初めて会ってその10日後に亡くなったという。向田はいきなり殴られたような衝撃を受けるが、その年の8月、彼女自身も帰らぬ人となってしまった。そういえばもうすぐ命日、例年ならば彼女のエッセイを読んだりするのだが、今年は趣向を変えて、野呂邦暢の小説を読んでみようと思う。きっと、心に残るいい作品に違いない。「風の歌を聴け」は発見するまでしばらくお預けだが、行きつ戻りつ、酔っ払いの千鳥足のような読書は、どうしても止められないのである。

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