家の本

3年前に、突然家を持ちたくなって、土地や古家、果ては集合住宅まで、時間の許す限り見て回った。その時、いつも念頭にあったのは、ある住宅のことだった。小さいけれど、非の打ちどころのないほど完璧な、人の暮らす場所。暑い寒いはあるかもしれないが、それを脇に追いやるほどの、安らぎの得られる場所。すべからく、家とはそういうものでなくてはならないという、わたしにとっての家のお手本だった。


その家を自邸とする建築家自らが語った、魅力ある家の種明かし。それが、「中心のある家」という本である。通常の専門書とは違い、子供向けにぬり絵ができるよう絵本の体裁をとっているが、その内容は凡庸なマイホーム本とは比べ物にならないくらい示唆に富む。

「どうしたら暮らしを楽しむ家になるのでしょう」

人生の重要な目的のひとつに、暮らしを楽しむことがある。そのために、家の果たす役割は大きい。したがって家そのものが、暮らしを楽しくするものでなくてはならない。上記の問いかけは、単純だけど力強い、家の一般原理というべきものだ。

と同時に、それはどこまでいっても暮らしに豊かさが感じられないという、われわれ日本人への問題提起でもある。アパート、マンション、庭付き一戸建てという、必然性のない住宅双六に、何の疑問も差し挟まない没個性のくらし。男子一生の目的というわりに、無表情の建売に、判で押したような高級車を押し込んで、それで一丁上がりと済ませられるのだろうか。

暮らしが貧しいと感じるのは、住宅の狭さや不便さに責任があるのではない。暮らしを楽しむことに真剣になろうとしない、その怠惰な習慣が問題なのだ。この本を読んで、そんな風に思った。子供向けの本という建前だが、まずは大人にこそ読んでもらいたい本である。

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