2009年1月16日金曜日

故郷



今から14年前、故郷で地震があり、多くの犠牲者が出た。早朝のニュースで、久しぶりに見る故郷の風景を目にしたとき、いったい何が起きたのか理解できず、呆然とテレビ画面を見つめていた。運よく家族は難を逃れたこともあり、それに仕事を放り出すわけにいかなかったので、何かすべきだと思いつつも、結局は自分の都合を優先してしまった。

急坂が多い街で、海を眼下にして登校した少年時代だった。よく遅刻しそうになって、足がもつれて坂道を転げ落ちたものだ。夏休みは教室の窓際に机を寄せて、海風に吹かれながら自習をした。休日には裏山でキャンプをしたり、村上春樹が通ったはずの古本屋で外国の雑誌を探したりしていた。最初にデートしたのも、もちろんこの街でだ。そして故郷の海で、わたしは泳ぎを覚えた。

地震から数ヵ月後、妹の結婚式に出るため、ようやく故郷に戻った。タクシーの窓からみる景色は、わたしの覚えている懐かしい街と違い、そこは無残な土色に変わっていた。時おり風が吹くと、力なく土埃が舞い上がった。それからのち、数年に一度わたしを迎える故郷は、いつもよそよそしい。たまに同郷の人と話すことがあっても、どこか後ろめたい感情がつきまとう。同窓会の誘いにも気が進まない。故郷を失うとは、つまり、そういうことなのかも知れない。

この国に暮らす限りは震災からは逃れられない。ただ、だからといって、それが原因で故郷を失うわけではない。今度、運悪く自分に震災が降りかかってきたときは、再び故郷を失うようなことだけはするまいと、強く心に誓っている。


・「風の歌を聴け」 映画に出てくるレコード店は、高校生のころ初めてジャズのLPを買った店である。

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