2009年6月5日金曜日

海辺の美術館

鎌倉に用事があり、ついでに少し足を延ばして、海辺の美術館を訪ねた。駅前からバスに乗って10数分の道のりは、山と海との間の狭い部分を抜け、曲がりくねった道の向こうに灰色の海が見え隠れする。そして古い漁村の面影が残る街は、南欧風の小洒落た飲食店や保養所などが散在し、どこかアンバランスで雑然とした印象を残す。

バスを降りると生暖かい風が吹きつけ、同時に強い潮の香りと、波の打ち寄せる音を運んでくる。正面から見る美術館は、背後に見える海と空を、ちょうど垂直と水平に白く切り取るような感じで建つ。数年前に出来たばかりの美術館なので、まだどことなくよそよそしさが残るが、そのうちいい具合に周囲の風景と溶け合っていくのだろう。

展覧会ははじめて観る作家の回顧展だったが、ほどよくコンパクトな展示と静かな雰囲気の中で、緊張感を途切れさすこともなく、作品を十分に堪能できた。作品は初期の実験的模索から、次第に精神性が深まって、やがて大自然の懐に抱かれるような大きな広がりを見せていく。そして、最晩年になっても衰えない創作意欲や、むしろ次第に若く清らかになるに精神に圧倒された。これは、時間をかけて観に行く価値のある展覧会だった。

絵を見終わってから、まだ時間があったので、館外に出てそのまま浜辺に降り海風に吹かれてきた。久しぶりに砂浜を歩き、波のそばまで寄り水を掬って遊ぶと、心までが洗われる気持ちになる。そしてその夜は、何週間ぶりかに、夢も見ずに熟睡した。

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