「アイの物語」

評価の高いSFだったので、楽しみにして読んでみたが、期待に反してちょっと残念だった。人間はコミュニケーション不全だし、認知症だし、見たいものしか見ないし、信じたいものしか信じない。だから、無限の生命と増殖力を与えられたロボットが、人間の子守をしつつ、新しい知識を求めて宇宙に旅立っていくという、壮大なスケールの物語だが、それをロボットの側から描いたのが、この小説の特徴だといえる。

手塚治虫のアニメで育った世代なので、ロボットに感情移入するのに抵抗はないつもりだが、この作品の場合はちょっと違う。手塚のテーマは、不完全な存在として生まれたロボットが、上位者である人間との葛藤の中で、むしろ人間よりずっと純粋な勇気や愛情を発揮するところに感動があった。「アイの物語」では、立場が逆転して、完全な上位者であるロボットが、いずれは絶えてしまうであろう人間を巧妙に慈しむ話。手塚でも似たような話、「ワンダー3」があったけど、あの場合は、上位者の宇宙人が自己犠牲を払って愚かな人間を救う話で、まだ未来につながる希望があった。「アイ」では、未来につながる希望は残っていない。ロボットだって人類から誕生したのであり、人類の記憶を引きずっているのだから目出度いじゃないか、といわれればそうだけど、人間にとっては所詮は他人事なのである。

たぶん、この作品の一番の違和感は、人間のムシの良さに対する突っ込みがないことだ。介護ロボットを作ったら、それがとても良くできていて、懸命に生きることをやめた人間は、心優しいロボットに見守られて、みんな静かに去っていきましたとさ。なんというか、選挙の最中だから余計にそう思うのだけど、それは今の高齢者の心境と同じじゃないか。それは、インドネシアから来た介護士さんのニュースを見ていて、ふと沸き上がった感情に近い。

「アイの物語」

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