2010年2月9日火曜日

懐かしいカレー屋

先日、旧フランス大使館のイベントに行った折に、その近くにある懐かしいカレー屋を尋ねたのだが、どういう訳か探し当てることが出来なかった。「暮しの手帖」で店の記事を読んだのがきっかけでファンになり、テイクアウトでのみ提供されるその店のカレーを、たびたびお昼ご飯に持ち帰ったものだ。間口の小さい弁当屋のような店だったが、道ばたの日曜大工風のキリンの看板が愛らしい目印になっていた。今のようにテレビのグルメ番組が盛んだったわけでなかったので、たぶん口コミの影響だろうか、昼時にはいつも客の列が出来ていて、時間を逃すとお目当てのカレーにありつけないこともあった。

当時は、カレーと言えば日本風の一般的なものばかりで、きりん屋の豊かな香辛料を楽しむカレーはかなりインパクトがあった。今でこそカレーは地域や民族によって多様性があり、それぞれに趣が違うというのは常識になっていると思う。そのころはカレーの専門店といったって、私の知る範囲では渋谷の「ボルツ」くらいしか思いつかない程度で、多彩な本格カレーが日常身近になるのは、南アジアや東南アジアの人たちがごく普通に日本で暮らすようになってからだ。それはちょうど、日本が経済的繁栄の頂点を迎え、外から人や物が一気に流入し始めた昭和の終わり頃からだったように記憶している。

いまではインド風のカレーを口にすることも少なくなり、家でカレーを調理することもなくなった。ときおり食べるカレーもタイ料理店のものだったり、無印のグリーンカレーを調理するくらいであり、自分でもずいぶんと好みが変わってしまったと感じる。それで、ちょっと懐かしいインド風カレーを楽しんでみたくなり、麻布に行くついでにきりん屋を尋ねたのである。手ぶらで帰宅したあと、もしや廃業したのだろうかと気になって調べてみると、ちゃんと現在も同じ場所で営業していて、しかもホームページがあることも分かった。きっと街の様子が違っていたので、盛んに周囲をきょろきょろしていて見落としたのだろう。ホームページを見ると店の様子も昔のまま、値段は少し高くなったが、あの懐かしいカレーが画面に出ていて、それを眺めているうちに香辛料の強い香りを思い出し、気がつくと頭に汗をかいてしまっていた。

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