ぬか漬け

散歩コースの途中に、若者や旅行客で賑わう街があり、週末ともなると大混雑するので、できるだけ迂回するように歩いている。しかし月に一、二度は米を買うために、その街に立ち寄ることになっている。たかが米、近所で買えばすむ話だが、そこの店では格安の玄米をその場で精米してもらえ、それがブランド米じゃないが結構美味いのだ。もともとわたしはブランド化した商品が嫌いなので、無名だけど良心的な品を商う店を大切にしたいという気持ちが強く、その結果ひどく遠回りな買い物をしているわけである。

そしてもうひとつ、精米した後に出る米ぬかを貰えるということが、そこでの買い物の動機になっている。何も言わなければ使い切れないほどくれるので、いつも少しだけ下さいと言い添えている。そして精米時に出る熱でほんのり暖まった新鮮な糠を一袋もらい、さて今夜は何を漬けようか、スーパーで旬のお見切り野菜が手に入ればいいな、などと考えながら家路に着く。

糠床の世話は当初は妻がしていたが、それがいつの間にかこっちに回ってきて、今ではすっかり糠味噌臭いオヤジになりはてている。漬ける材料は、従来なら捨てていた葉ものや芯の部分とか、冷蔵庫の隅で古くなった根菜とかで、なにか台所のリサイクル事業のような感じである。そういえば、街の駅前にある闇市の雰囲気の残る一角に、その時代から商売をしていた老婦人の露天の店があり、よくそこで自家製のぬか漬けを買ったものだ。雑多な野菜で見栄えは決して良くなかったが、滋味深い味の漬け物だった。最後にそこで買い物をしたのがいつだったのか、遙か遠い以前のような気がする。

何キロも歩いて買い求めた米の炊きたてのご飯と、自分で作った野菜のぬか漬けが食卓に並ぶ。お金は掛かってないが、時間だけはたっぷりと掛けている。これが揃えば不思議と満たされるのである。

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