2010年12月26日日曜日

今年読んだ漫画

世間に置いて行かれないよう、毎年必ず何冊かは漫画を読んでいる。その世界のことはほとんど知らないが、ネットと図書館のおかげで良質(たぶん)の作品に接することができている。今年読んで良かったと思ったのは、高野文子の作品だった。なかでも短編集『棒がいっぽん』が魅力的で、しっとりと心に残った。そこでのイチオシは、何と言っても『美しき町』。舞台は昭和40年前後か、社宅住まいの若夫婦のありふれたエピソードを描いたもの。進行する「今」では捕らえにくい幸福を、30年後の「未来」の目で語っている。物語の最後で妻が言う。「たとえば三十年たったあとで今のこうしたことを思い出したりするのかしら。子供がいておとなになってまたふたりになって思い出したりするのかしら。」平凡な日常を生きて、淡々と暮らすことが、後で振り返れば、それは抱きしめたくなるような幸せだった。人生の単純な真実を、これほど雄弁に語る漫画は読んだことがない。最後の数ページの感動は、何と表現すればいいのだろうか。

そして、もうひとつは、こうの史代の『夕凪の街 桜の国』。被爆者の短い青春を描いた作品である。原爆の悲劇を描いた作品はいろいろと読んできたが、等身大の個人の観点から、これほど深い悲しみを描けたものはない。これに匹敵するのはTVドラマ『夢千代日記』くらいだろうか。漫画ファンにとっては今更だろうが、長編の映画や小説で伝えきれない感動を、やすやすと乗り越える日本の漫画の力は素晴らしいと感じた。

2 件のコメント:

  1. 「棒がいっぽん」はずいぶん前に読んだはずだけど、すっかり忘れてしまっています。読み直してみようかな。
    たかのさんの漫画はこちらのインタビュー(http://www.mammo.tv/interview/archives/no277.html)をみて、ちょうど読んでみたいと思っていたところでした。

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  2. umeさん、どうもです。
    今頃知ってどうするんだと罵られそうですが、わたしにとって高野文子の作品は、まさに「目から鱗」と呼べる発見でした。優れた映画で酔うように、漫画で酔うのは初めての経験でした。
    それから、インタビュー記事、さっそく読みました。実にストイックで、シブトイお顔をされてます。これからも期待できる作家さんですね。

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