迷わない

ひどく慎重な人がいる。何をするにしても、十分に情報を集め、対象について徹底的な評価をするのが好きだ。しかし自分では決断しきれず、結局は態度保留となることが多い。買い物をする際には、山ほどパンフレットを集めて、ああでもないこうでもないと考える。そしていつも、何で選んだのか分からないくらい詰まらないものを買って、すぐに飽きてしまっている。決して愚ではないのだが、一事が万事その調子で、多くの貴重な時間を無駄にしている。

おそらく、その人に欠けているのは、「感情」ではないだろうか。他人がどう思おうと無関係の、一番大切な自分の感情が抑圧されている。自分が嬉しいと感じるような、「色」や「形」を知らない。最高に愉快だと思える「時間」を体験していない。だから比較ばかりの冷めた時間を過ごしているのだ。その人は、いつも困った表情を浮かべて混乱している。とても誠実で、温かな心を持った人なのだが。

冷蔵庫を買い換える必要があり、大型電器店に現物を見に行った。2年前は余計な仕切りを捨て去ることで乗り切ったのだが、いよいよそれも限界になったのである。以前と比べて、すこしは状況に変化が見られるだろうかと期待したのだが、残念ながら少しも改善していなかった。要するに全部同じ。違うのは容量と値段と銘柄だけ。陰気な色に、不明瞭な形、余計な機能。これを選んだら楽しいだろうなとか、どんな生活に変わるだろうか、というワクワク感が全然ない。

いったいどういう人たちが、こういうのを作っているのだろうかと想像したとき、真っ先に思い浮かべたのが「その人」のことだった。真面目で仕事熱心な、いかにもその人が作りそうな商品だった。そう思うと、情けないというより、ちょっとかわいそうな気持ちになった。そして、選ぶべきものがないわたしも、何台もの冷蔵庫を前にして、巻き尺片手に困り果てている。迷う楽しさのない世界は、つまらない。

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