父の旅立ち


一時は好転した父の病状が思わしくないとの連絡を受け、予定を早めて郷里に戻った。ほんの半月前には普通に言葉を交わし、ときおり軽い冗談を言っていた人が、口もきけずベッドに横たわり、たくさんのチューブやコードにつながれていた。そして家族の簡単な問いかけに、微かに首を動かして答えようとしていた。その変貌にショックを受け、わたしはただ呆然とベッド脇に立ち尽くすばかりだった。

自宅で倒れてから2ヶ月半、結局一度も家に戻ることなくこの世を去った。家族にとっては思いもよらない突然の出来事だったが、あとで父の遺した手帳を読んでみると、特に重い病気があったわけではないにもかかわらず、死期が近づいているのを漠然と感じていた様子が窺えた。おそらく父は、自分の介護で家族に苦労を掛けるのが嫌だったのかもしれない。そしてできることなら、そっと静かに穏やかに最期を迎えることを望んでいたに違いない。ちょうどわたし自身が日頃そのように願っているように、父は人生最後の願いを叶えることができたと信じている。


葬儀を終えて5日ぶりに家に戻ると、出発前には蕾だけだったウツギが、満開の花を咲かせて迎えてくれた。真っ白な花びらが美しく輝き、周囲に甘く強い香りを放っていた。

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