私の好きな料理の本


雑誌「考える人」今月号で、「私の好きな料理の本」というリストが掲載されていた。想像通りの本もあれば、これはぜんぜん知らなかったという本もいっぱいあり、ここに挙げられた料理本のリストがじつに興味深かった。もっとも、自分ではふつうの実用書に対して、好きも嫌いもないという感覚がある。必要な調理法を調べて、作ってしまえばハイさようなら、という接し方がほとんどだから。

ただ、それで簡単に本を捨てられるかというと、案外とそうでない。料理本には格別の愛着があるのだ。あちこちにマーカーが引かれ、ポストイットが貼られ、ところどころソースのシミなんかが付着している。汚れてかび臭くなった本の中に、過去の食の記憶が閉じ込められている。ちょうど愛用の辞書と同じかもしくはそれ以上で、必要もないのに捨てられないのが料理本だ。

わたしのそんな一冊に「おそうざいのヒント365日」がある。材料と調理法が簡潔に述べられただけの、無味乾燥の料理集。調理すべき材料があれば索引から逆引きして調理法を探すという、あたかも辞書のように使えるハンドブックだ。ふつう料理というものは、疲れて帰って冷蔵庫を覗き込み、決まって期限の切れた卵とか萎びた白菜しかなくて、腹も減ったしさてどうしたものか、というところから始まる。そういう時に、チャラチャラとしたクッキングブックなんてまったく使い物にならない。腹減って、切羽詰まって始めるのが料理であり、ここで役立つのが本書なのである。

駆け出しの頃、妻より先に帰宅することが多く、いわば成り行きで料理当番となった。それから本書をいつも参考にして、端からメニューを潰すように総菜を作っていった。そして何年か掛けてひととおり作り終え、やっと料理とは何かがおぼろげに理解できた。美味しい料理を作る本はいくらでもあるが、毎日の実践で繰り返し料理を学ぶ本はあまり見ない。誰もが習得すべき総菜料理を、ごく自然に習得させる実用の名著として「私の好きな料理の本」のひとつに挙げたいと思う。

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