早春の旅 1

ユーラシア大陸の西端の、かねてから憧れの土地を歩いた。そのむかし危険をものともせず未知の世界に旅立ち、大航海時代の先頭を切って莫大な富を築き、さらに時を経て静かに歴史の表舞台から退き、今では大国の狭間でひっそりと存在している小国。その首都の中心街には放棄された廃屋や空き家が多く目につき、ブランドショップが建ち並ぶような華やかな通りでさえゴミが散らかり、あちらこちらから鼻を突く異臭がする。


若者たちは移民や出稼ぎに行ったのだろうか、街には寂しげな老人の姿が目立ち、それは日本の地方都市によく似ている。この国は極めて高い失業率に苦しみ、本来なら稼ぎ手の男たちが、昼間から所在なげにベンチに座り込んでいるのが日常の風景だ。人々の暮らしぶりは質素、身なりはどこか貧相。どうやって生計を立てているのか心配になる。


街角の商店を覗くと、幼い頃に売られていたような素朴な商品が棚に並んでいる。生活必需品は国内で生産できているようだが、値の張る工業製品はほとんどすべて輸入物。派手なショッピングセンターには、私たちにも馴染みのある国際ブランド企業が軒を連ね、表通りには最新モデルの高級車が走り回っている。労働力以外売るものを持たない国がグローバリゼーションの波に洗われて、救いようのない貧富の格差が広がり、歴史ある古い町に居心地の悪い風景を晒していた。


厳しい表情の人が多い。老人たちの顔には深い皺が刻み込まれている。しかし、人柄は決して悪くない。私たちが道に迷っているのを察して、尋ねる前に方角を指し示してもらったことが幾度かあった。男たちは総じて寡黙だが、現地の言葉で挨拶すると、善良で率直な笑顔を返してくれる。最初の戸惑いとは裏腹に、わたしはこの国が好きになっていた。何しろ、少年の頃からの憧れの地なのだから。


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