2012年8月27日月曜日

いただき物


家でコーヒー豆を挽いてたころ、ときおりコーヒー豆をプレゼントされることがありました。「はい、おみやげ!」と、ずしっと手応えのある紙袋を渡されて、思わずその場で袋を開いて覗き込み、中からふわっと香ばしい匂いが立ち上るときの感動。どんな品物より、嬉しかった。そして同じコーヒーでも、なぜか粉をもらうより豆のほうがずっと嬉しい。残念なことに、その後コーヒーグラインダーを手放してからは、そういう楽しみはなくなりました。

「八百万の死にざま」というミステリー小説で、ポン引きが主人公の探偵に美味しいコーヒーを淹れ、探偵がその味を褒めると、コーヒー豆を持って行くよう勧める描写がありました。自分が飲むために吟味したコーヒー豆を褒められて、これに対する彼なりの友情の表明だったのでしょうか。このあと探偵はどうしたかというと、ホテル住まいだからだという理由で、申し出を断ってしまいます。両者の深い孤独を思わせる、とても印象的な場面でした。

先日、思ってもみない頂き物があり、しばらく忘れていた感動を味わいました。手渡された茶色の素朴な紙袋の中には、なんと生麹がどっさりと入ってました。さっそく袋に鼻を突っ込むと、麹独特の心地よい香りが広がります。いま流行りの言い方だと、深い癒しの香り。無限の恵みをもたらす麹を手にして、さて何を作ろうかと思案する楽しさは、また格別でした。

せっかく何かの縁で、われわれは日本に生を受け、麹の恩恵をいっぱいに受けて成長しました。だから、コーヒー豆のように、ちょっとした付き合いで麹が普通にやり取りされるようになると楽しい。それが日本の伝統的な食生活を考えるきっかけになれば、更に素晴らしいことだし。それでも、たまたま味噌汁を褒めたら、うちの麹を持って行けと差し出されると、普通は面食らいますよね。これが味噌くらいなら、十分にありそうですが。

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