「ずばり東京」
橋本治の「日本の行く道」に、この日本を1960年代前半に戻すべきだという提言がなされていた。それはちょうど東京オリンピック前夜の、大人が夢を見ることを恥ずかしいことだとは少しも思われなかった時代である。いわば新生日本の青年期である。
ところで、それは実際にどういう時代だったのか。わからなければ本を読もうと手に取ったのが開高健のルポルタージュ「ずばり東京」である。あの開高健が、「東京」という巨象にしがみついて、体温や臭いや、皮膚の下で脈打つ血管のうねりまで描写した、迫力のルポ40編である。いや、その内容の面白いこと面白いこと、最近話題の懐古映画なぞ足下にも及ばない出来だ。
特に素晴らしかったのは、東京オリンピックの開会式を描いた1本。そこで感じたのは、国家的イベントに国民が心ひとつになるという素朴な連帯感の心地よさであり、それを育む国の若々しさである。そして最初は巧みな表現に笑いを押さえきれなくなるが、なぜか読み終える頃には切なさで一杯になった。年老いて縮み行くこの国の、立ちすくむ姿しか見たことのない者からは、まるでおとぎ話の世界である。
どのエピソードも面白い。人それぞれに感じ入る部分は違うだろうが、どれも決して飽きさせない。この本、わたし自身にとっては再読になるが、読後の印象が当時とあまりに違い驚いている。日本は年老いたが、わたしもそれなりに年齢を重ねたということだろう。



