2007年5月30日水曜日

シュロの日用品


最新号の暮しの手帖に、シュロ箒職人の記事が出ていた。世間ではあまり認知されていないが、知る人ぞ知るあの名品の作り手Kさんの仕事場と、そのシュロ箒を扱う老舗の話。暮しの手帖らしい、おだやかで淡々とした記事は印象がいい。

以前から後継者がいないことが気がかりだったのだけど、ようやくその心配もなくなった様子。職人の素晴らしい技術を、しっかりと受け継ぎ、もっと多くの人たちに広めてほしいものだ。流行に乗っただけの最新デザインの掃除機より、職人が人生をかけて作るシュロの箒。同じお金を使うなら、きっとそっちのほうが価値があると思うのだけど。

そういうわたし自身は、いつかは欲しいと思いつつ、妙に丈夫な掃除機があるので、未だに手にすることができないでいる。仕方がないので机や棚を掃除するための、卓上箒で名品の気分だけを味わう状態。運良く掃除機が壊れたら、その時は断然、師匠ではなく、美しいお弟子さんの作ったシュロ箒をぜひ求めたいと思っている。

そしてもう一つの気がかりは、畳表を手織りする職人の後継者がいないこと。需要はいくらでもあり、グローバル経済の荒波にも耐えていける数少ない日本人の仕事。わたしが学生だったら、未来のないホワイトカラーより、希少価値のある職人の世界を選ぶのだけどね。学生の就職希望先の人気リストを見て、あまりの能天気さに呆れてしまうのだ。

2007年5月28日月曜日

撫子


西日本では黄砂の影響で、広い地域で空がかすんだという。遠く中国の砂漠で舞い上がった砂塵が、風に運ばれ海を渡って、列島に降り注ぐ。普段は意識しない隣国が、すぐ傍らにあることを否応無しに実感する。

この数日の高い気温のせいで、プランターの撫子が次々に開花している。植えた覚えは全然ないのだけど、遊びにやってきた鳥たちが残していった糞の中に種子が混じっていて、それが発芽したのだろう。この撫子も、遠い昔、中国から伝わったもの。我が家と同じように、中国から飛来した渡り鳥の置き土産に違いない。やって来るのが、鳥や花やら文化だけなら楽なのだけど、そうは問屋が許さない近所付き合いの難しさ。

「危険な幻想」を読んで、ちょっと憂鬱になる。

2007年5月20日日曜日

バードウォッチング


昨夜の天気予報を見て、バードウォッチングを計画した。そして今朝は、予報どおりの五月晴れ。かばんに双眼鏡を2個、サングラスを2個、カメラを1個、水筒1本、タオルとキャンディを少々。連休中は家の周囲しか出歩かなかったので、久々の遠出である。

行った先は東京港野鳥公園。周囲は卸売市場や倉庫、ちょっと離れて空港など、巨大な人工物に取り囲まれているが、いったん公園の中に入ってしまうと、そんなことをすっかり忘れてしまいそうである。今日はアオサギ、カイツブリの親子、コアジサシなどなど。無心になって野鳥たちの姿を追っていると、いつの間にか二人とも日焼けしてしまっていた。

公園を出て、遅めのお昼を大森にある有名百貨店で奮発する。ナポリタン(大)とダイシンBセット。都心のデパートは全然つまらないけど、ここだけは別格。デパートの自然保護区みたいな場所なのである。

2007年5月13日日曜日

「勝者の代償」

「勝者の代償」ロバート・B・ライシュを読む。
通信技術やコンピュータの発達は、消費者の選択肢を多様化させ、かつ選択の切り替えが容易な経済、すなわち「ニューエコノミー」をもたらした。わたしたちは、何時だろうとどこでだろうと、世界中の市場を相手にベストの選択をすることが可能になった。しかしその反面、企業間の競争を激化させ、労働者でもあるわたしたち自身の生活を圧迫するようになってきた。

今の時代をあらわすキーワードは「選別」である。わたしたちがベストの選択を欲するとき、商品はもちろんのこと、人間、政府やコミュニティーまでもが「選別」の対象となってしまう。有形無形のあらゆるものが金銭評価され、評価の高いものと低いものが分別され相互に切り離されていく。

初めてインターネットを使って買い物をしたのは、10年ほど前になる。アメリカにある会社からビタミンの錠剤を購入したのが最初だった。きちんと決済されるだろうかと心配するまもなく、数日後には宅急便で届いたのにはびっくりしたものだった。どきどきしながら「注文ボタン」をクリックしたとき、わたしは将来の予測が立たない、きわめて不安定な未来を選択したことに全く気付かなかった。

おそらくこの流れは止まらないだろう。世界中に今より豊かな生活をしたいと願う人たちがいる限りは、企業や個人は終わりのない競争を続けなくてはならないからだ。スキーをしていて、いきなり急斜面が現れたとする。回避しようとして腰を引くと必ず転倒する。まっすぐ谷底に向かって上体を投げ出し、思い切って斜面を滑り降りるしか助かる方法はないと思う。身も蓋もないが、それが今の状況。そして新聞で「ふるさと納税」の話題を読み、本気でこの国を捨てたくなったのである。

2007年5月6日日曜日

試乗


ニューモデルの試乗会に行った。買い換えにはまだ早いが、そろそろ最近のトレンドなどを知っておき、最適の乗り換えタイミングを探る算段なのである。

試乗するのは10年ぶりなんだけど、車のあらゆるところが変わってしまい、気分は今浦島。ハンドルが嘘のように軽く、オートマチックはまるで無段変速のようにショックを感じさせない。そしてそれ以上に感心したのが、車体の安全性能が格段に向上していたこと。いやはや、テクノロジーの進歩に置いてきぼりにされつつあることを、思い知らされてしまった。

車のデザインは、今乗っている車と比べると、ずいぶんと筋肉質で攻撃的な印象。実のところ、そういうのはあまり好まない。車体の安全性能を追求するとそんな形になるのかもしれないが、似合わない服を着るようで気が進まないのである。

帰り際に、ディーラーに乗りつけた古バイクを囲み、係りの人としばし歓談。たまたま以前乗っていたバイクが同じで、昔話に花が咲く。楽しさとテクノロジーは、それほど関係がないんだよな。

2007年5月3日木曜日

錆落し


ぼんやりとテレビを眺めていたら、ずっと以前にうちの自転車を作ってくれた人が出ていた。鉄パイプを切断し、慎重につなぎ合わせ、しっかりと溶接して、それからいろいろ部品を取り付けて、ようやく1台の自転車ができ上がる。観ているうちに、錆の浮いた自転車が恥ずかしくなって、夕方からやおら錆落しを始めた。

バーブラ・ストライサンドの歌を聞きながら、ブラシと油片手にひたすら錆を落とす。前にこの自転車を磨いたのは何時だっけ、サドルもぼちぼち取り替えなくてはと、とりとめもないこと思いながら、2時間以上かけて仕事を終える。
本当につまらない作業だけど、こういう時間こそが豊かな生活には必要なんだと思う。

チューリップの最後の球根が花をつけた。茎もしっかり伸びて、大振りのとても綺麗なツートンカラー。大器晩成というやつだ。

2007年5月1日火曜日

CDの整理


PCの内蔵ハードディスクを交換して、片端から音楽CDを取り込んだ。音質的には多少問題があるということだが、わたしにとってはそんなことより、いつでも手軽にお気に入りの音楽を楽しめるほうが大切なのだ。とりあえず頻繁に聴く200枚程度を圧縮したが、大容量ハードディスクなのでぜんぜん余裕。CDを聴くたびに箱の中を探して、取り出したものを棚に散らかして、収拾がつかなくなって再び整理するという悪循環から抜け出せて大満足だ。

しかしそれだけでは、この作業は終わっていない。次は置き場所をとって仕方がなかった音楽CDそのものをスリムにする必要がある。そこでビニール製のソフトケースを買ってきて、CDや解説書を入れて、抜け殻となったプラスチックケースを処分した。これでCDの体積は2分の1以下に圧縮され、更に段ボール箱に詰め直し、これを押入れ深く放り込んですべて完了となった。

ぽっかりと空間の生まれた書棚を眺め、ようやく心の平穏を取り戻した連休4日目なのである。